刹那-4
「あー楽しかった。こんなに笑いながらごはん食べたの初めて」
がいても変わらない4人の食事風景に、彼女は笑いっ放しだった。
「騒々しい食べ方でしょう?すみません」
「ううん、久し振りにおいしい物食べた、って感じ。――ごちそう様でした」
「いいえ。三蔵、さん送ってあげて下さいね」
「俺がか?」
「あなたが一番お世話になったんですから、当然でしょう?」
「ちっ……仕方ねェな」
立ち上がった三蔵に続いて、も席を立った。
「みんな、本当にありがとう」
「お礼を言うのは僕達の方ですよ。お元気で」
「うん。ありがと。みんなも元気でね」
言いながら1人ずつ頬にキスして笑った。
「ちゃん、できたらこっちにちゅーっと♪」
唇を指さす悟浄に、三蔵の銃口が向いた。
「……調子に乗ってんじゃねーぞ、エロ河童」
「何で三蔵サマが怒んのよ。
お?もしかしてちゃんに惚れちゃった?」
ジャキ。撃鉄を上げ、引鉄にかけた指に力を込める。
「死にてェか、クソ河童」
「ジョーダンだって」
「はいはい、そこまでです。三蔵、お願いしますね」
「……行くぞ」
「待ってよ、もう。みんなありがと。じゃあね」
ひらひらと手を振って三蔵の後を追って行く。
「さて……、僕達も戻りましょうか」
「そうだな」
「 あ 」
「どうしました、悟空」
何か思いついたような悟空の声に、八戒が振り返る。
「なー、三蔵戻ってきても部屋ないじゃん」
「ああ……。大丈夫ですよ、三蔵は」
「……あの様子だと、そーだな」
「え?え?何だよ、2人とも」
判らなくて2人を見比べる悟空に、声を揃えて言った。
「「 今夜は帰ってきません 」」
「ね……少し遠回りしてもいい?」
「遠回り?」
「そ。こっちこっち」
ぐいっと腕を引かれ、連れて行かれたのは町の裏手にある丘。
「ほら……星、綺麗でしょ」
「……ああ」
見上げると、満天の星空。
「私ね、嫌な事とか悲しい事があると、ここに来て星を見るの」
「 …… 」
「そうするとね、星達が“大丈夫だよ”って……
“元気出して”って言ってくれてる気がする」
「……今は悲しいのか?」
ううん、とかぶりを降った。
「1度でいいから、この星を誰かと見たかったの」
「……そうか」
「だって、そうしたらこの空を見上げるたびにその人の事、思い出せるでしょう?」
そう言って、ふっと三蔵に視線を据える。
「……それがあなたでよかった」
「……」
「さ、帰ろ。付き合ってくれてありがと」
腕を絡ませて、いたずらっ子のように笑いながら歩き出した。
「じゃあ、確かに送り届けたぞ」
帰ろうと背を向ける三蔵。
「あ……待って」
その背中を引き止めるかのようにきゅっと掴む。
「明日には……この町出てっちゃうんだよね……」
「ああ」
「今日が最後の夜なんだよね……」
「そうだな」
「お願い……帰らないで」
「?」
「1ヶ月近く一緒にいて……ケンカもしたし、腹立つ事もあったけど、私……」
背中から抱きついて、小さい声で呟いた。
「……初めて好きな人ができたわ」
「 …… 」
「わがままなのは判ってる。でも……この町で最後の夜を私にちょうだい」
「……俺があんたを愛してなくても?」
「それでいいの。あなたに愛してもらえるのは、私みたいな女じゃダメ」
「」
「でも私はあなたが好き。だから……私の本名、覚えておいて……」
振り向いた三蔵は、を見つめた。
その唇が告げる名前を聞き取る。
「いい名前だ……でも俺はその名では呼ばない。それでも辛くないのか?」
「辛くないわ。――それとも、やっぱり女は抱けない?」
「生身の女は100年早ェんじゃなかったのか?」
「もう……ほんとーにカワイクないんだから……バカ」
そっと、三蔵の唇に自分のそれで触れる。その途端にこぼれる涙。
「……」
「変ね。キスなんて数えきれないくらいしてるのに……」
泣き笑いの表情で見上げる。――と。
「……ニャ――」
「」
抱き上げた指先は微かに震えていた。
「……この子もね、拾ったの。あなたを拾った日に、同じ場所で」
「そうか」
「倒れてたあなたの頬をずっとなめてたわ。
だからてっきりあなたの猫だと思って」
「俺は猫は苦手だ」
「だって……似てるんだもの。金の髪も、紫の瞳も、生意気なトコも」
「……悪かったな」
「だからね…あなたがいなくなっても大丈夫。この子いてくれるから……」
「そうか」
「うん。、もう1晩こっちで寝てね」
バスケットの中に下ろすと、しばらく見つめていた。――が、やがて諦めたのか丸くなって眠ってしまった。
「……ごめんね」
苦笑してベッドへ向かう。その腕を三蔵が引き寄せた。
「 ? 」
「俺はあんたを愛してる訳じゃない」
「うん、判ってる」
「けど――――嫌いじゃない」
「……ありがとう。最高の愛の告白だわ」
くすっ。
自然に洩らした笑顔は綺麗だった。今まで見た、どんな表情よりも。
「っ、え!?」
不意に抱き上げられ、慌ててしがみつく。
「……もう喋るな」
「……三蔵…」
「喋るなと言った」
そのまま重なった影は、ベッドへと沈んだ。
ご提供者:水城るな 様