刹那-5

三蔵が目覚めたのは、夜明け前だった。
体調もいいし、痛みも残っていない。

ほんの少しだけ残る疲労感は――――昨夜の、名残り。

横を見ると、が幸せそうな顔で眠っていた。
髪に伸ばしかけた手を止める。
この幸せが今だけならば、邪魔したくなかったから。

ベッドを下りて服を着た三蔵に、が近付いてきた。

「……俺達、同じ日に拾われたんだとよ」

「ニャ」

「……の事、頼んだぞ」

「ニャ―」

任せておけ、とでも言うように鳴いたを初めて撫でてやってから、外へ出た。

残されたは、たっとベッドに駆け上がると、まるで慰めるかのように
今まで三蔵が寝ていた場所にうずくまる。

「……

「ニャ」

「酷いよね……黙っていなくならないで、って言ったのにね」

「ニャ―」

「嘘つきなんだから……バカ」

「ニャ―」

ぽろっとこぼれた涙を、がなめとる。

「くすぐったい……あなたはいつまでも私の傍にいてね、

「ニャ」

その頷いたような返事がおかしくて。を抱きしめて、少しだけ泣いた。

外に出て窓を見上げる。自分に似た猫と、気の強い飼主が住む部屋の窓。
そうして気が付いた。最後に、アレルギーが出なかった事に。

(……やっぱり俺達、似た者同志みてェだな……)

そう思って苦笑した三蔵の耳に聞こえてきた、聞き慣れたエンジン音。

「おはようございます」

「……いいタイミングだ」

「ええ、まあ」

三蔵が乗り込むと、すぐにジープを発進させる。

「……いいんですか?」

「後は頼んできたからな」

「ああ……頼もしいパートナーがいましたね」

「ああ……」

頼んだぞ、と心の中で呟く三蔵を乗せて、ジープが走り去る。

は窓からその後ろ姿をじっと見送っていた。
を腕に抱えたまま。

「行っちゃったね」

「ニャ―」

「でも淋しくないよね」

「ニャ―」

「……ごはんにしよっか。行こ」

背を向けた窓から見える森の向こうで、朝日がゆっくりと昇り始めていた。

管理人よりひとこと

ご提供者:水城るな 様