Suclptured amethyst-8

「ジープ、いつもありがとうね!」

「キュウ!」

その日、日没間際に妖怪の襲撃を受けた。

いつものようにジープがの彫像を銜えて少し離れた場所に避難し、そこでは人の形になった。
首から下がった珠は鮮やかな赤。

戦闘中の様子を見れば、襲ってきた50人ほどの妖怪はすでに数人を残すのみになっており、それもバタバタと倒れていく。

「あ! 終わったみたい」

はそうジープに声を掛けた。
もう、その場に立っているのは四人だけだ。

「さ、戻ろう」

が言うと、ジープは四人の近くまで飛んでいった。

「ふふっ。やっぱり八戒さんのそばの方がいいのね」

八戒に懐いているジープの様子が微笑ましかった。

その直後、ジープに追いつくべく歩いていたの足が止まった。

「……なに? あれ……?」

それは、妖怪を片付け終え緊張がとけた時の一瞬の隙。

突然、地面からドーム状のものが出現し、四人とジープを覆った。

同じく地中から現れた一人の妖怪の両手から発生しているようだった。

「「 なんだよ! これ!! 」」

悟空が如意棒で、悟浄が錫杖で破壊を試みるがキズひとつつかない。
三蔵の銃弾も、八戒の気功砲も、効かないどころか跳ね返っては四人を襲った。

「無駄だ。これは妖力と術を融合させて作った完全なる結界。
どんな攻撃でも壊すことはできん」

には妖怪のその声は聞こえなかった。
だが、ただならぬ状態であることはわかる。

気取られないように、妖怪の背後の死角から慎重に近づく。

「そのうち中の酸素がつきる。その時こそ、お前らの最期だ」

その声は聞こえ、は四人がおかれた危機的状況を知った。

しかし、四人には動じたふうは見えない。
ただ三蔵と悟浄がタバコの火を消しただけだった。

(なんて人たちだろう……
私が慌てたり、取り乱したりしちゃいけない!
あの妖怪にはまだ私のことは気付かれてない。
何かチャンスはあるはず!!)

は息を殺してそのチャンスを探した。

「でも、あなたも息があがってるようですが?」

「これを作るにはそれなりに体力も精神力も使うんでね。
お前たちを倒すことができなければ殺される。こっちも命がけなんだよ。
お前らがくたばるのが先か、俺が倒れるのが先かの一八勝負だ」

「なら、お前が死ぬか、意識を失うかすれば、この結界はとけるということか」

三蔵の言葉に妖怪はニヤリと笑った。

「ああ、根競べといこうじゃないか」

四人は少しでも体力を温存させるためにその場に座り込む。

「……無駄に動くなよ。声も出すんじゃねぇ」

会話はそこで途切れ、半透明のドームは徐々に収縮していく。
それは妖怪の消耗の度合いのようにも、中の酸素の消費に比例しているようにも見えた。

一対四の息詰まるようなやりとりには圧倒されていた。

その脳裏に不意に三蔵の言葉が浮かんだ。

『お前は、自分にできることをしただけだろう?』

(今の私にできること……皆を助けるために、私ができること……)

答えは一つしかなかった。

杖を握る手に不必要に力が入る。

(こんなに緊張してたら、気配に気付かれる)

『平常心、平常心』と、自分に言い聞かせ深呼吸を繰り返す。

生身の身体でない今なら人としての気配も消えているはず。
この夕闇も味方してくれるだろう。

息を潜め、震えそうになる足を叱り付けながら、妖怪との距離を縮めた。

ドームの中の四人は苦しそうに荒い息を繰り返し、もはや座位を保つことも難しそうだった。
ジープは既にぐったりとしている。

三蔵と目が合った。

それが合図のように、は妖怪の背中に短剣を突き立てた――

妖怪の背後からが近づいてきていることに四人は気づいていた。

(((( 来るな!!!! ))))

この状況にを巻き込んでいないことに安心していたのにいったいなんのつもりなのか!

しかし、下手に声を出せばの存在を敵に知られ、その身を危険にさらしてしまう。

と目が合った瞬間、三蔵は悟った。

強い意志を秘めた双眸。

殺される覚悟をした目。殺す覚悟をきめた瞳。

そして、は短剣を構え、身体ごと妖怪にぶつかっていった。

「うぁぁっっ!!」

妖怪が呻き、その場に崩れ落ちる。同時に結界が消えた。

妖怪の背中には深々と剣が刺さっていた。

「「「 ……!! 」」」

は身体を強張らせ肩で息をしている。
三人は目の前で起こったことに驚きを隠せない。
三蔵だけが冷静に状況を受け止めていた。

名を呼ばれたことでは正気に戻ったようだ。

倒れている妖怪の横を過ぎ四人のそばに寄ったが、一番手前にいた三蔵の前でへたりこんだ。
どうやら足に力が入らないらしい。

しかし、それでも、気丈にも四人に声を掛けた。

「皆さん、大丈夫ですか?」

「ああ」

悟浄は守ってやりたいと思っていた相手に守られたことが悔しかった。

「あなたのおかげです。ありがとう」

八戒は手を汚してしまったの罪悪感を少しでもぬぐってやりたかった。

「…………?」

悟空はまだ状況を受け止めきれていなかった。

「…………」

三蔵はが決心した結果ならそれでいいと思った。

辺りが衝撃と悲痛が入り混じった空気に包まれた時、

「小娘ぇぇっっっ!!」

死んだと思っていた妖怪が起き上がった。

呼吸困難から解放されたばかりの四人の反応は一瞬遅れてしまった。

が振り向くのと、振り降ろされた妖怪の鋭い爪がの身体を砕くのは同時だった。

「「「「 !!!! 」」」」

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