drink in ...  かいな

「あ、今日、誕生日だ」

宿に着いてチェックインをしている時、カレンダーを見たが言った。

「へぇ、そういやっていくつ?」

「……悟空、そういうこと聞く?」

そう返事をしつつ、もはっきり答えられないことに気付いていた。

(えっと、生まれたのがXX年だから……嘘! もうそんな年?
でも身体は20くらいのはずなのよね……どっちを実年齢にすればいいの?)

「そうそう。わざわざ聞かなくても一目で見抜けるくらいじゃねーとな」

「じゃあ、悟浄、わかるのか?」

悟浄もが30年以上の時を過ごしてきたのは知っている。
が、外見はどう見ても20そこそこのだ。

「……21ってとこ?」

「では、そういうことでよろしく!」

「ぷっ」

の返事に八戒が吹きだした。

(うっ、八戒も気付いてる……)

は顔が赤くなるのを感じた。

「フン。くだらん」

かくしての年齢が決定した。

夜。せっかくの誕生日だからと、宿に隣接しているバーに飲みに行くことになった。
未成年の悟空はジープとともに留守番。
『俺だけ置いてくなんてヒデェよ!』という苦情は大量の食料で丸め込んだ。

フロアー係が注文にきた時、が言った。

「そういえば、私、お酒って飲んだことない」

「だったら、最初は甘めのカクテルから試してみた方がいいかもしれませんね」

八戒の言葉を受けてフロアー係が、今日はレディスデーで女性は二千円でカクテル飲み放題だと言ったのでそれにした。

「最初はどんなのがいいのかな?」

「甘くて軽いつったら、ファジーネーブルとか、カルアミルクとか?」

「じゃ、そのファジーネーブルを」

三人はボトルを入れ、ロックで飲むことにした。

注文の品がそろったところでグラスを合わせ、にとって初めての酒宴が始まった。

「おい、。それ何杯目だ? 明日、二日酔いになっても知らんぞ」

それぞれにグラスを重ね、しばらく経った頃、三蔵が諌めた。

ファジーネーブルから始まって、カルアミルク、ピンクレディ、ブルームーン、ピーチフィズ、ミモザetc.
にも、もう何杯飲んだかはわからなくなっていた。

しかし、そういう三蔵たちも三本目のボトルがもう空になりつつある。

「……顔は赤くなってますけど、それほど酔ってるようには見えませんね」

「うん。頭はハッキリしてるよ。お酒って楽しいね〜!」

「ちくしょー! つぶして介抱してやろうと思ってたのに、なんか俺のがヤベェ」

「だって悟浄、すごいピッチで飲んでたじゃない。ロックだしね」

が今飲んでるのだってドリームですよ? さっき飲んでたのはマルガリータでしたし」

「でも甘いよ?」

「甘いわりに強いんですけどね」

「別に気分悪くとかはないけど?」

「あー、俺、もうダメかも〜」

「そろそろお開きにしましょうか? 僕は悟浄を部屋に連れて行きますんで」

「ああ」

「ほら悟浄。しっかり立ってください。行きますよ」

「おー」

悟浄は八戒の肩を借りながらも足元が覚束ない。

「……三蔵。悟浄、大丈夫かな?」

「知るか。放っておけ」

三蔵は立ち上がり、カードで会計を済ませた。

その間もはまだ椅子に座ったままだった。

「おい。行くぞ」

「うん。立とうと思うんだけど、なんか、足に力が入んなくて……」

「はあ?」

はテーブルに手をついて立ち上がろうとした。

が、

「あや?」

その場にへたり込んでしまった。

三蔵は内心、ため息をついた。

(……コイツ、足にくるタイプだったのか……)

「どうしよう……?」

見上げてくるその顔は、三蔵にはたいそうな間抜け面に映った。

「チッ……しょうがねぇな」

のそばまで戻ってきた三蔵が身をかがめた。
くるりと回転した身体が浮遊感に包まれる。

「え?」

の目の前には布でできた白い壁。

(えぇ〜っ! 肩に担ぎ上げられてる〜??)

はあせった。

「ちょ、三蔵?」

「暴れるな! 落とすぞ! それとも這って帰るか?」

「……それはヤだ」

「だったらおとなしくしてろ」

「……うん……」

三蔵はを担いだままスタスタ歩き始める。

(恥ーずーかーしーー!!)

バーにいる人たちの失笑が聞こえては顔を上げることができなかった。

宿に入ったときもフロントの人に笑われてしまった。

は申し訳なくなった。
自分は顔を隠せるけど、三蔵はそうはいかない。

「……三蔵」

「……なんだ?」

「ごめんね……」

「だったら、次から気をつけろ」

「うん」

の部屋に入ると、三蔵はベッドに片膝と空いているほうの手をつき、を無造作にドサリと降ろした。

(……荷物じゃないんだから……)

としては文句を言いたいところだが、口には出せない。

そして、すぐに立ち去るのだろうと思っていた三蔵が、を降ろしたときの体勢のままでいるのに気付いた。

の頭に疑問符が浮かぶ。

「さん……」

名前を呼びかけたとき、三蔵の身体がベッドに沈んだ。

「さ、三蔵!?」

慌てるの呼びかけに応える声はなく、聞こえるのは規則的な呼吸音のみ。

(寝てる?)

うつぶせの三蔵の顔はあちらを向いているので見えないが、かすかに上下する背中の動きに合わせて聞こえるのは寝息に間違いない。

「三蔵ー? もしもしー?」

声を掛けると

「んん……るせぇ……」

応答とも寝言ともとれない声と同時に三蔵の顔がこちらを向いた。

(……やっぱり寝てる……)

さて、どうしたものか。

を抱えあげていたほうの三蔵の腕は、今もの腹の上に載っているし、片足はベッドからはみ出した状態である。

が下手に動けば三蔵はベッドから落ちてしまうだろう。

(三蔵も結構飲んでたものね……ここまで運んでもらっちゃったし……起こすのも可哀想かなぁ……)

そんなふうに考えながら、思わずまじまじと見つめてしまった。

印象的な紫の瞳は閉じられているが、間近にある顔の端整さは十分にわかる。

(……キレイな顔……)

無意識のうちにその髪に伸ばした手を、触れる寸前でとめる。

(私、なにやってんだろ? …………きっと酔ってるんだわ……)

三蔵の腕はまだの身体の上にある。

軽々とを担ぎ上げた(かいな)

(細身なのに、力あるよね……やっぱり男の人なんだ……)

見蕩れてしまう白皙の美貌が、体温を感じるほど近くにある。

鼓動が激しいのも、顔が熱いのも、初めてのお酒のせい。
そう思うことにした。

(これじゃあ、眠れないよ〜! 三蔵〜!)

しかし、立てなくなるほどに摂取したアルコールはを眠りにいざなっていく。

翌朝、目覚めた二人がどうだったかは…………

end

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