Shower 始まりの雨
「っだー!! やぁっぱ、降りだしたかー!
しかもいきなりこの勢いでってのはなんだよ!?」
「もう少し走れば廃村があるはずです。
そこに着けば雨宿りくらいはできるでしょう」
「えぇ!? 廃村? そんじゃメシはどうなんだよぉぉっ! 俺のメシィ〜〜!!」
「やかましいっっ!! 屋根があるだけマシだ。八戒、急げ!」
「きゃー! 雷ぃっ!!!!」
「うるせぇ!」
その日、突然の豪雨に追い立てられ、一行はとある廃村に駆け込んだ。
妖怪に襲われたのか、過疎化がすすんだだけなのか、人が消えた理由は定かではないが、誰も住まなくなってからしばらく経つらしいその集落は、倒壊した家も原形を留めている家も、そのどれもがこぢんまりとしており、住人がいた頃にも閑散としていただろうことがうかがえた。
なんとか雨をしのげそうな程度の状態を保っている一軒を選び、飛び込んだのは、夕方というにはまだ少し早い時間だった。
雨は降り始めより更に勢いを増し、当分、止みそうにない。
全員、ずぶ濡れになっていた。
家の中は荒れ果てていた。
入ってすぐの部屋は床の半分が抜け落ちているし、残されていた僅かな家具も、ひっくり返っていたり、壊されていたりした。
しかし、これなら火をおこす材料にだけは事欠かない。
部屋の奥にはドアがあり、その先にもう一つ小さな空間があった。
剥げかけているがタイル張りになっているところを見ると、浴室として使われていたのだろう。
「私、ここで着替えるね」
は着替えとタオルを持ってドアを閉めた。
「今夜の宿はここで決まりか?」
「仕方ねぇだろう。動いてもまた濡れるだけだ」
「なぁ、メシは? 俺、腹ペコなんだけど」
「前の町で買った食糧が少しはありますからそれで我慢してください」
「えぇ〜? 足りねーよぉ!」
ドア越しに聞こえる会話に笑みがこぼれた。
が着替えて戻ると、四人は上半身裸でそれぞれ火をおこしたり、濡れた服を干したりしていた。
「私もこれ干さなきゃ」
服を干して火にあたる。
「あったか〜い。雷も止んだしー。嬉しー」
そんなに悟浄が声をかけた。
「なぁ、ちっとは目のやり場に困るとか、そういうのないの?」
「ん? 別に平気。お兄ちゃんいたし」
「そんなもん?」
「うん。うちのお兄ちゃん、夏は家の中じゃトランクス一枚ってことも多かったから」
はそう答えて、屈託なく笑った。
「ふーん」
「まあ、必要以上に気を使わなくていいのはこちらも楽ですけどね」
「なに、くだらねぇ会話してんだ」
不機嫌な声がした方を見ると、三蔵があぐらの片膝を立ててタバコをふかしていた。
その瞬間。
どきん!
の心臓が跳ね上がった。
(あれ? なんで?)
いきなり心拍数が上がったわけがにはわからない。
「、食事の用意をしますから手伝ってもらえますか?」
「あ、うん」
不思議には思ったけれど、は八戒の手伝いを優先させた。
「やったー! メッシー! メッシー!」
背後で悟空がはしゃいだ声をあげる。
「うるせぇ!」
三蔵のハリセンが悟空にとんだ。
食事の間もの動悸は治まらなかった。
正確には三蔵の姿が目に入るたびに治まりかけたものが再発するのだった。
(他の三人は平気なのに何故〜? 早く服着て欲しいかもー!)
戸惑っていると悟空に言われた。
「あれ? 、顔が赤いぞ? 熱でもあるのか?」
「え? そんなことないよ?」
答えたとたんにクシャミがでた。
「濡れたからなー。風邪でもひいたんじゃないか?」
「ちょっと失礼しますよ」
悟浄の言葉を受けて八戒がの額に手を当てた。
「少し熱いですね。大丈夫ですか?」
「うん。自分じゃいつもどおりのつもりだし」
「後片付けは僕がしますから、早く横になってください」
「……うん。ありがとう。あ、まだお湯ある?」
「ええ、ありますよ」
は荷物の中から乾燥させたサフランを取り出し、カップに入れ湯を注いだ。
「、なにそれ?」
「サフランティー。風邪にいいのよ。悟空も飲む? 身体があったまるよ」
「うまいのか?」
「んー、ハーブティーだから、人によって好みは分かれるかも?
はちみつかミルクいれた方がおいしいし」
「寒いなら俺があっためてやろうか?」
「……遠慮しとく」
「なんだ、残念」
そんな会話をしていると三蔵に叱られた。
「いつまで喋ってんだ。風邪っぴきならとっとと寝ろ」
「はーい……」
返事をしながら、やっぱり、心臓は激しく動いたけれど、もう気にしない。
お言葉に甘えさせてもらって、毛布に包まって横になった。
(風邪のせいなのよね……)
謎が解けた安心の中で眠りにおちていく。
それは、まだ自覚はないけれど、の心がある方向に傾き始めた、雨の夜の出来事。
end