我慢
薄く雲のかかった月の光が淡く辺りを照らす森の中。
野宿にはすっかり慣れているものの悟浄はなかなか眠れないでいた。
上空の雲をゆっくりと流す風は少しの肌寒さを感じさせ、それが余計に寝つきを悪くさせているようだ。
隣で先に眠ったが身じろいで羽織っている毛布の合わせを深くした。
(寒いのか?)
悟浄は起こさないようにそっと肩を抱き寄せた。
くっついていれば少しは違うだろう。
それに自分の方が風上だ。悟浄は風よけになってやることにした。
(はっ……この方が俺もあったけえや……)
触れ合った僅かな部分からでもの体温が伝わってくる。
胸の中に抱き込めばもっと暖かいのだろうか?
強く抱きしめれば、もっと……
そうしたい衝動を必死で抑えた。
抱きしめてしまえば、その頬に触れてみたくなるだろう。
頬に触れれば、唇に触れたくなるだろう。
唇に触れたなら、次は…………
望みはどんどんエスカレートしていってしまう。
踏み出しても苦しさが増すだけだとわかっている事だ。
無邪気な寝顔を無防備に晒すこの鈍感なお人好しまで、その苦しみに巻き込んでしまいたくはない。
(……生殺しだぜ。ったく……)
すぐ傍で眠れる時は嬉しくて、辛い。
宿で離れて寝る時はこの葛藤からは解放されるが、一人で寝ているのではないと思うと、やるせない。
元になっている感情そのものを捨ててしまえれば楽になれるのかもしれない。
しかし、一緒に旅をしている以上それはひどく難しいし、そんな気にもなれなかった。
(後腐れのねえ女ばかり相手にしてきたツケがまわってきたのかね……?)
こんな厄介な気持ちを抱えるのは、たぶん初めてだ……
(…………我慢、するしかねえよな……)
明日の朝、少し寝ぼけた笑顔で『おはよう』と言ってもらえるのなら、自分の冗談にあの明るい声で笑ってもらえるのなら……
……褒美としてはささやかだけれど、悪くない。
悟浄は目を閉じて、の寝息に呼吸を合わせた。
耐えてみせるから、君と同じ眠りの中に、どうか俺を誘って……
end