Indian Summer
この時期にしては珍しく暖かい静かな午後だった。
昼少し前に着いた町。
昼食を摂った後に入った宿でとれた部屋は二つ。部屋割りはいつもどおり。
悟空、悟浄、八戒の三人は買出しに出掛け、はお茶を淹れた後、洗濯をしに行った。
そして、三蔵は一人、宿の部屋にあった大きなソファーに座り、新聞を読んでいた。
広い窓から差し込む光が部屋全体を明るく暖かく包み、実に心地良い空間を作っている。
昨夜は野宿だったりその中で襲撃を受けたりと慌しかったが、その分を差し引いてもまだ釣りがくるような穏やかさだった。
そのままうっかり眠ってしまっていたことに気付いたのは目が覚めた時。
こんな風に転寝をするのは三蔵にとっては珍しかったが、少々の寝不足と温室のような室内の暖かさのせいだと自分を納得させた。
ふと、気配を感じて見ると、隣にがいた。
身体ごとこちらを向いてソファーの背もたれに乗せた腕を枕にスヤスヤ眠っている。
その体勢からは、が三蔵の寝顔を眺めているうちに眠ってしまったのであろうことが容易に想像できた。
いつ戻ってきたのか、どれくらいの間そうしていたのか全く気付かなかった。
いくら自分に対して悪意を持っていない相手だからとはいえ……自分は人の気配には敏感な方ではなかったのか……?
何故かしてやられた気分になってしまい、寝こけているの呑気な顔が癪に触った。
起こしてやろうと、鼻を抓むべく伸ばした手は、だが、目標に届く前に止まった。
眠ったままのが笑ったのだ。
擬態語をつけるとするならば『にへらぁ〜』 そんな笑い方だった。
(……何、笑ってやがんだ? 気色悪りぃ)
破顔の一笑の後もは微笑みを浮かべたままで、それは『微笑ましい』というよりも滑稽に見える様だった。
そして、一連の変化に思わず引っ込めて行き場をなくしてしまった手が、我ながらマヌケだ。
デコでもはたいてやろうかと再び手を伸ばしかけた時、絶妙のタイミングでが寝言を放った。
そのほとんどはむにゃむにゃと口ごもる感じでよく分からなかったが、唯一、聞き取ることができた言葉があった。
『……さんぞぉ……』
は確かにそう言った。
三蔵は伸ばし損ねた手で髪を掻きあげ、ため息をついた。
「……チッ」
舌打ちをして天を仰ぐ。
さっきまで八つ当たり的にイラついていたくせに、悪い気はしていない自分に腹が立つというか呆れるというか……
窓に切り取られた陽射しは時間の経過と共に少し傾いて放射状に広がり、はその光を浴びながら、相変わらず気持ち良さそうに眠っている。
すっかり毒気を抜かれてしまい、もう起こそうという気は失せていた。
「……どんな夢、見てやがんだかな……」
火を点けたタバコの煙を吐き出しながら、そうひとりごちて自嘲した。
こんな事を考えるなんて、まるで夢の中の自分にヤキモチを焼いているようだ。
しかし、思わずにはいられない。
――目ぇ開けて、俺の顔見て、笑えってんだ――
end