二人

穏やかに、心静かに時間を過ごすことを好んできた。

だから、一人でいることが気楽だった。

金山寺を出たあの日からずっと一人だったのだ。

それが、ひょんなことから慶雲院に落ち着き、悟空を拾い、悟浄、八戒と知り合い、今は喧しいことこの上ない旅の日々だ。

その中で更にもう一つ、おかしなモノを拾った。

そう、最初はなりゆきで仕方なく、一時的にジープに乗せただけだったのだ。

それなのに……

いつの間にか、いるのが当たり前になっていた。

姿が見えないと落ち着かないのは、目を離すと何をしでかすかわからないところがあるから。

よくよく考えると何気にトラブルに巻き込まれやすい体質のようだ。
自分たちと出会ったのもそれ故かと思うと皮肉で笑えてくる。

監視の必要性がある――

それだけでしかないはずだった。

自分の中で起こっている変化に気づいたのは、もう修正などとてもできなくなってしまった頃だった……

傍に置いているのは、
その笑顔を望むのは、
触れずにはいられないのは……

その『拾いモノ』がもたらした一番厄介なもののせい……

「三蔵?」

テーブルの向かいで本を読んでいたに呼ばれ、我に返る。
目に入る小首を傾げた不思議そうな顔。

「どうしたの? ぼんやりして」

「いや……どうもしねえよ」

「そう? ……お茶でも淹れようか?」

「ああ」

必要最低限の、会話とも言えない様なやりとり。

日中はあの三人を相手によく喋る唇が、二人きりでいる時には大人しい。

そういえばコイツは自分よりも長い時間を一人で過ごしていたのだったと思い至る。

静寂を楽しむ術を知っているのだ。

新聞に目を戻して、少しすると『はい』という声と共に湯呑みが差し出される。
口に運ぶ湯気の向こうにの姿。

自嘲にも似た気分と共に茶を飲み込んだ。

穏やかに、心静かに時間を過ごすことを好んでいる。

しかし、一人でいると物足りない。

二人でいることにすっかり慣れてしまった。

二人でいることが当たり前。

二人でいることが安らぎ。

二人でいることが……

end

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