I wonder

深夜をとうに過ぎた部屋の中は、独特の雰囲気に包まれていた。

気だるく、それでいて満ち足りた穏やかな空気は、先ほどまで行われていた行為の名残で甘ささえ含んでいる。

三蔵は心地よい疲労感を覚えながら、を腕の中に抱きこんだ。

さっきまで散々好きにした身体は無抵抗に囚われ、まだ荒い息が胸にかかり、速い鼓動が伝わってくる。

自分がそうさせた――悶えさせて、啼かせて、乱れさせた。
そう思うと三蔵の男としての自尊心は大いに満足させられていた。

やがて落ち着きを取り戻したの小さな呟きが耳に届いた。

「……なんか不思議」

「何が?」

「三蔵とこうしていることが」

「不思議か?」

「うん……だって、三蔵って、『色恋なんか鼻にもかけない』って感じじゃない……
一応、お坊さんだしさ」

「『一応』は余計だ」

「……最初は、絶対に知られちゃいけない気持ちだって思ってたし、伝えてもフラれるだけだと思ってた……」

眠そうなの声が、まるで子守唄のように静かに響く。

「こんなふうに……同じベッドで、一つの毛布を、一緒に使うことがあるなんて……
思ってなかった……」

は小さく笑って、目を閉じた。

「……今でも……時々、信じられない気持ちに、なる時があるよ……」

最後にそう言って、眠ってしまったようだ。

三蔵はを起こさないようにそっと腕をほどいて、自嘲した。

まったくだ。

自分でも信じられない。

自分がこんなに他人に――しかも「女」に執着するなんて……

物心ついた頃から、女はおろか同年代の者もいない環境で暮らしていた。
嫌がらせや謗りを受けることも多く、心を許せる相手などほとんどいなかった。

金山寺を下りてからは、手がかりもないままに聖天経文を探して諸所を巡り、生き延びるためだけに数多の殺生を繰り返した。

最高僧「三蔵法師」の名を持ちながら、手を血で汚していく狂気と孤独。
荒んだ放浪生活の中で自分を見失っていた。

いつであろうと、人付き合いなど煩わしかった。

ましてや女に対して興味や関心を持つことなど――なかった。

それが今は、他者と一緒に旅をしている。

そればかりか、こうして女と褥を共にしている。

何故、こうなったのか。

何故、アイツらなのか。

何故、コイツなのか。

そんな事は考えても無駄だ。わかるわけがない。

不変のものなどない。
人であれ、物であれ、変化するのは当然のこと。

(……本当に、なんでだろうな……?)

不思議なのは、こういう風に変わってしまったことだ。

――生きて 変わるものもある――

生き続けるということが変わり続けるということなら、その結果が今なのだとしたら、それを受け入れるだけだ。

捕らわれているわけでも、縛られているわけでもない。

このぬくもりを手離したくないと思っているのも、あるがままの自分なのだから――

end

Postscript

HOME