ゴメンナサイ

情緒不安定だった自分も身近な人たちに感化されて変わった。
『次に一緒になるならどんな女性がいいだろうか?』
そんなことも考えられるようになってきた。

男ばかりの旅で、その世話を一手に引き受けている日々。
昼夜を問わず襲ってくる刺客や賞金稼ぎとの戦いは時に殺伐とした気分を誘う。

そんな中に、ある日突然、飛び込んできた人物。

最初は、ただしばらく同行する羽目になっただけの珍客だった。
『珍客』という言い方には語弊があるかもしれないが、日中には小さな彫像になってしまう人を的確に表す言葉を当時は他に思いつかなかった。

初めは小さかったその存在は、いつの間にかどんどん大きくなり……

今となっては誰にとっても掛け替えの無い大切なものとなっている。

一般的に見ればそれほど小柄な方ではないのだろうけど、上背のある自分たちの中にいるためか、華奢な体つきのためか、外見はとても小さく頼りなげに見える。

その小さな身体で懸命に戦い、労を惜しまず、さりとて決してでしゃばる事なく一行の世話を手伝ってくれる人に庇護欲や感謝以上の感情が生まれてしまうのは、ある意味、当然のことかもしれなかった。

その人は、容姿にも性格にも申し分のない、つまり、とても魅力的な――

女性だった。

「結局は全部、言い訳ですかねえ……」

宿の部屋、就寝すべく横になったベッドの上で、眠れないままに考え事をしていた八戒はそう、ひとりごちた。

一度、意識し始めてしまったら、それ以前には戻れない。

ふと、のことを考えてしまう時間が、日に日に長くなっているように感じるのは、きっと気のせいではない。

その理由を考えていて出て来た言葉だった。

『言い訳』

……でも、誰に、何に対しての?

…………きっと、自分に対してだ……

雨の夜には疼く古傷への……

思いがけず芽生えてしまった感情への……

どんなに愛しても、あの人は蘇らない。

たとえ愛しても、あの人が寄り添う相手は別にいる。

どうにもならない想いを二つも抱えてしまうとは……

いつだったか、二股をかけてトラブった悟浄に『ちゃんと、どちらかに決めないからですよ。中途半端なのは相手の女性に失礼です』と言ったのは自分だったではないか。

それなのに、このザマだ。

(自虐的傾向には飽きたはずだったんですけどね……)

ため息をついて閉じた瞳に、浮かぶ人たち。

ゴメンナサイ

貴女ことを忘れてしまったわけではありません。
でも……それでも彼女が気になってしまうんです。

ゴメンナサイ

あなたの中に彼女の面影を探しているつもりはないんです。
でも……ふとした時に甦る記憶が僕の中から消えることはないでしょう。

ゴメンナサイ

本当に、ゴメンナサイ……

end

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