キレイ
宿の一室で、三蔵は銃の手入れをしていた。
昨日からの雨は静かに、しかし絶え間なく降り続け、旅の足を止めている。
雨に呼び起こされる記憶はいつも酷く重い。
師を亡くした夜の後悔と失望感。
長安に行き着くまでの四年間。
ただ自分が生き延びるためだけに、襲ってくる者を殺し続けてきた間の罪悪感と狂気と孤独。
命を奪うことは容易い。殺られる前に殺っただけだ。
それなのに……
――死んだ眼――
一つ命を奪うごとに少しずつ自分自身も死んでいったのだ。
そして、今も、銃を手にしている。
誰かのためになんて、くだらない綺麗事を言うつもりはない。
生きてやるのだと、開き直っただけだ。
この現実に生きる痛みからも、血に塗れた真実からも目をそらさないと決めたのだ。
この旅に出てから、もういくつの命を奪ってきたのかなんて覚えていない。
殺らなければ殺られるのは同じだ。
……だが、その中で、なくしたくないものが、守りたいものができた……
まだ誰も手にかけたことのないアレの戦い方は、自分たちに言わせればてんで甘い。
手に握った刃物は主に防御と威嚇に使われ、たとえ切りつける時も狙うのは腕や足で、決して致命傷を与えることはない。
ただ一度だけ、覚悟を決めて背中を刺した時も、急所は外れていたようで、結局、止めをさしたのは自分の銃弾だった。
だが、アレの場合はそれでいい。
そう思っているのも事実。
初めて人を殺めた時の悪夢は、何年もの間、自分を苛んだ。
奪った命の重みで生きながらにして奈落に落ちる。
それが人を殺すということ。
アレをそんなめには合わせたくない。
そう、なくしたくないのは、守りたいのはアレの命だけではないのだ。
手入れの済んだ銃に弾を込めながら、己に誓う。
――誰にも殺させない――
――誰も殺させない――
――汚れ物は俺たちだけで十分だ――
血塗れた手でお前を抱く俺を、拒まず受け止める白い腕。
せめてその手はキレイなままで……
end