願い
最近、は夜、なかなか寝付けないでいた。
眠れないのではない。眠りたくないのだ。
珠の力を暴走させてしまった時のことで一つだけ思い出したことがある。
身体がどんどん広がって空気に溶け込んでいくような、意識が身体から離れていくような、不思議な感覚……
その後、実際に身体の形をなくしていたのだと聞いた。
そして、もし、もう一度、そういう事が起こったならば、命の保障はないのだと……
こういう旅の中にいるのだから、覚悟はしているつもりだけれど、まだ死にたくはない。
使ってはいけない力だというのなら、進んでその禁を犯そうとも思わない。
しかし、その方法がわからない以上、手の打ち様がないのも事実だった。
だから、眠るのが怖い。
意識が眠りの中に吸い込まれていく時の感じが、あの時のあの感覚に似ているから。
それが普通の睡眠なのか、そうでないのかの区別がつかないから。
だから不安なのだ。
――このまま寝て、もし、もう目が覚めなかったらどうしよう……? ――
そして、は今夜も、飛んでしまいそうな意識を必死で繋ぎとめていた。
三蔵に愛されて、頭の中なんてとっくに真っ白だったけど、それでも眠るのが怖かった。
その恐怖から逃れるように、抱きしめてくれている胸に顔を埋め、広い背中に腕を回す。
(あ……心臓の音が聞こえる……)
伝わる鼓動とぬくもりに、すっぽりと包まれているような気がして、つきまとっていた不安を忘れた。
「……ずっと……こうしててね……」
「あ? 何か言ったか?」
「これからも、ずっと、こうしてて……」
「お前がそんなこと言うなんて珍しいな」
「たまにはいいでしょ?」
「まあな……」
ギュッと抱き合って、は久しぶりに安心して眠れると思った。
――三蔵がこうしててくれるなら、何も怖くない――
――三蔵と一緒なら、たぶん大丈夫――
薄れていく意識の中で願った。
捕まえててね。
ずっと、あなたのそばにいられるように。
離さないで。
end