眠る

深夜、行為を終えた後で三蔵は、失神に近い眠りに落ちたをベッドに残し、シャワーを浴びていた。

温かい無数の雫が汗を流していく身体に残るのは不快ではない疲労感。

ユニットバスを出てジーンズをはいて、上半身は肩にバスタオルをかけただけの格好で、ミネラルウォーターのペットボトルをあおった。

部屋に備え付けの冷蔵庫でほどよく冷やされていた液体が喉を潤していく。

口を離すと、角度の変わったボトルの中で残りが踊り、ポチャンと音を立てた。
髪から滴った水滴がそれを持った手に落ちて伝った。

(……水、か……)

どんな形の器にも従い、どんな色にも染まる。
様々に姿を変えても確固として存在し、循環を繰り返す中で自らを浄化する。
表面の穏やかさの中に激しさと強さを隠し、時には岩をも穿ち、山さえ砕く。
そして、時間さえかければどんなものでも溶かしてしまう。

生命あるものには不可欠な、水。

はまるで水のようだと思う。

普段は柔軟に臨機応変に相手に合わせるしなやかさを見せるくせに、ここぞという時には頑として譲らない。

掴みどころの無さまでよく似ている……

「さんぞう……?」

が目を覚ましたらしい。
隣にいないので声を掛けてみたというところか。

「ここにいる」

言った後でベッドに戻り腰掛けた。

「シャワー、浴びてたの?」

「ああ。お前も浴びるか?」

「眠いから、後でいい……」

の声は少し掠れている。
さっきまであれだけ啼かせていたのだから当然だろう。

「水、飲むか?」

「うん」

差し出したボトルを細い手が受け取り、嚥下する白い喉がコクコクと音を立てた。

返された残りを飲み干し、三蔵もベッドに入る。

甘えるように擦り寄ってきた身体を胸に抱き込んだ。

すぐに寝入ったが安らかな寝息を立てる。

三蔵はそっと目を閉じた。

穏やかなリズムに包まれて、水面にたゆとうような心地よさの中で、眠りに落ちる。

今夜もまた、水に眠る。

end

Postscript

HOME